わしの暇つぶし

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サンタクロース引き継ぎ

こんにちは。

皆さんお気づきかと思いますが家に来るサンタクロースって毎年別人ですよね。サンタクロースは何体もいて、割り当て地区が毎年変わっているのだ、というふうに考えている方、多いと思います。しかしそれは大きな間違いです。サンタクロースは常に1体しか存在しないからです。では何が起こっているのでしょうか?説明します。

 

 

12月24日の夜、サンタクロースは世界中を飛び回り、こどもたちにプレゼントを配ります。この仕事にはとてつもない量のエネルギーを要します。サンタクロースは生まれてからずっと、この日のためにエネルギーを蓄え続けてきました。

 

 

12月25日の朝、大仕事を終えたサンタクロースが瀕死の状態で巣に帰って来ます。巣の位置は正確には特定されていませんが、北極の何処かにあることが分かっています。

 

 

巣は氷を掘って地下に作られたものですから中は真っ暗で寒いです。まるで洞窟のよう。暗くて寒い、洞窟。帰ってきたサンタクロースは暗闇が支配する巣の中で、モゾモゾ、モゾモゾという音を耳にします。音は次第に大きくなり、やがて轟音に変わる。ゴーゴーゴーゴー、ゴーゴーゴーゴー。大きい。何か、何かとてつもなく大きなものが蠢いている。そして多い。大群。そう、大群だ。大きな「何か」の大群が真っ暗な巣の中を激しく動き回り、サンタクロースの帰還を歓迎している。

 

 

瀕死のサンタクロースが右手を挙げる。手のひらを上に向け、高く、挙げる。そして青白い光の玉。手のひらの上に青白い光の玉が生まれる。小さな玉はやがて大きくなり、巣全体を青白く照らす。動く。青白い光の玉がサンタクロースの右手を離れ、ゆっくりと動く。放物線だ。緩やかな放物線を描きながら、光の玉は一体の「何か」を照らす。

 

 

大きい。高さは3m。全長は8m。まるでダンゴムシのように背中を殻に覆われている。ただその殻は柔らかい。柔らかくて半透明。スライムのような質感。細く小さい足。何本も何本も生えている。口は?人間が丸ごと入るほどの大きな口。鋭い牙が所狭しと生えている。目はない。この暗闇で目は役に立たない。白だ。白。全身が白い。半透明の白。凶暴なその姿が嘘のように、優しい白。

 

 

光の玉に選ばれた「何か」。その周りが光に照らされて見える。同じだ。同じものがたくさんいる。おぞましくも優しい「何か」が、巣全体に。百、いや、千。千体の「何か」が巣を埋め尽くしている。

 

 

光の玉が吸い込まれる。選ばれたその「何か」に。青く光る。半透明の体が青く光る。強く。強く青く。そして動き出す。選ばれた「何か」は動き出す。ゆっくりと。小さな足をせわしなく動かして、ゆっくりと進む。そして着いた。どこに着いた。サンタクロースの目の前。

 

 

悲しそう。選ばれた「何か」は悲しそう。ためらっている。穏やか。サンタクロースは穏やか。全てを受け入れている。挙げていた右手を静かに下ろす。両腕を広げた。大きく広げた。ゆっくり。優しく。「何か」を受け入れてあげるように。「何か」の迷いを、取り去ってあげるように。

 

 

「何か」は食べた。口を大きく開けて食べた。サンタクロースを食べた。悲しそう。「何か」は悲しそう。青く光りながら。むしゃむしゃ。むしゃむしゃ。とても悲しそう。青に照らされた洞窟の中で。選ばれた「何か」は泣いている。食べ終えた。サンタクロースを食べ終えた。そして千個の卵を産む。人間のこどもほどの大きさの卵を千個。粘性のある液体と一緒に。どばどばと産む。

 

 

選ばれなかった「何か」はどうなった。残りの「何か」は。真っ白だ。毒々しく白い。透明さを失ってしまった。死んだ。選ばれなかった「何か」は死んだ。顔は安らか。全てを知っていたよう。真っ白が埋め尽くしている。青く照らされた真っ白が、洞窟を埋め尽くしている。

 

 

光が消える。選ばれた「何か」の光が消える。縮んでいく。選ばれた「何か」が。形を変えながら縮んでいく。みるみる。みるみる縮んでいく。人型だ。縮んで人型になった。知っている。サンタクロースだ。そこにはサンタクロースが立っている。おぞましい「何か」の姿はもうない。赤い服に赤い帽子。白い髭に白い袋。サンタクロースになった。新しいサンタクロース。

 

 

そして食べる。新しいサンタクロースは食べる。選ばれなかった「幼虫」を。ゆっくり食べる。むしゃむしゃ。むしゃむしゃ。一匹食べ終わった。迷いはない。二匹目だ。二匹目を食べ始める。むしゃむしゃ。むしゃむしゃ。蓄えている。新しいサンタクロースは蓄えている。同種を食べて。兄弟を食べて。新しいサンタクロースは蓄えている。クリスマスを待つこどもたちのために。