あだ名の付け方(プロの技)
あだ名の館へようこそ。プロのあだ名付け師があなたの情報を多角的に分析し、最適なあだ名をつけてくれます。
「次の方どうぞ」
ギギィ…
「ようこそ、あだ名の館へ」
「お、お願いします」
「緊張されていますね。リラックスしてください」
「は、はい」
「ではお掛けください」
「はい、失礼します」
「それでは事前に提出していただいたプロフィールを使って進めていきます」
「佐藤健太さん28歳男性、ご職業はフリーター。フリーターでいらっしゃる?」
「はぁ、恥ずかしながら…」
「いえいえ、何も恥ずかしがることはないですよ。まだお若いのですから」
「現在は何をされているのですか?」
「地元のファミレスで働いています」
「なるほど。夜勤など大変でしょう」
「はい。でもお客さんが美味しそうに食べてるところを見ると、やっててよかったなという気持ちになります」
「真面目でいらっしゃいますね。お体に気をつけて頑張ってください」
「ありがとうございます」
「では次に行きましょう。身長168cm体重80kg。なるほど」
「すいません、だらしない体型で…」
「いえいえ、個性ですから。自信を持ってください」
「小中高と野球をやっていたということですが、ご贔屓の球団などおありですか?」
「はい、ソフトバンクを応援しています」
「なるほど。好きな選手などいらっしゃいますか?」
「内川選手です。ここぞというところで打ってくれますから」
「内川選手といえばつい最近、2000本安打を達成されましたね」
「はい!本当におめでとう、という感じです!」
「ずいぶんとお好きなんですね」
「あ、すみません。つい興奮してしまいました…笑。続けてください」
「謝らないでください。お客様がいろいろな表情を見せてくださればそれだけ、あだ名の仕上がりもよくなるのですから」
「そういうものですか」
「そういうものです。おや、好きな歌手はポルノグラフィティですか」
「はい、大好きなんです。あの独特のラテン調がたまらないんですよね、アゲハ蝶とか、サウダージとか。最近だとミステーロなんかもいいですね。この頃はアニソンにばかり手を出していて賛否両論ありますが、僕はそれも好きです」
「なるほど。私邦楽をあまり聴かないものでして。最初に聴くのにオススメの曲などありますでしょうか」
「うーん、やっぱり有名どころがいいんじゃないのかな。アポロとか、アゲハ蝶とか」
「分かりました。機会があれば拝聴してみます」
「ぜひ笑」
「最後に私からいくつか質問させていただいてもよろしいでしょうか」
「はい、構いません」
「ありがとうございます。では早速、仕事終わりに一滴飲むとしたら、のどごし生とプレミアムモルツ、どちらがいいですか?」
「どっちでもいいなぁ…。一滴ですよね?ならお茶とか飲むわ」
「強いて言うなら?」
「プレミアムモルツかなぁ…」
「ありがとうございます。では、明日世界が終わるとしたら、脱毛手術かレーシック手術、どちらを受けますか?」
「どっちでもいいなぁ…。いやどっちもしてる場合じゃないでしょ。実家帰ったりしろよ」
「強いて言うなら?」
「レーシックかなぁ…」
「ありがとうございます。では最後の質問です。子供がすでに100人いるとしたら101人目は男か女どちらがいいですか?」
「どっちでもいいなぁ…これは本当にどっちでもいい…」
「今いる100人は全員男です」
「じゃあ女だろ!先言えや!」
「ありがとうございます。それでは今までの情報を総合的に分析して、お客様に最適なあだ名を算出いたします。」
「なるほどなるほど、はいはいはいはい、出そうですね、いいのが。あーはいはいはいはい、出ます出ます、あー出たっ!!」
「出たんですか?」
「はい、出ました」
「それでは発表します。あなたのあだ名はクソデブです」
「え?」
「聞こえませんでしたか?『クソデブ』と申し上げたんです」
「いや聞こえましたよ!なにサラッと2回言ってんすか!失礼でしょ!」
「いや、失礼とおっしゃられましても。これが最適解なんですよ」
「何が『総合的に分析する』ですか!『クソデブ』なんて見た瞬間思いつくやつですよ!」
「やはり人間は第一印象が大切なんですねぇ」
「『なんですねぇ』じゃねえよ!なに一人で感慨深くなってんすか!もう一回やり直してください!」
「豚はよく騒ぎますねぇ。何回やったってクソデブはクソデブなんですよ。ブーブー言ってる暇があったらダイエットでもしたらどうなんです?」
「チクショウ!!絶対見返してやるからな!!」
この日から彼はダイエットに励み、一年後には身長180cm体重70kgの細マッチョボディーを手に入れました。
そして彼は変身した姿をあのあだ名屋に見せつけるため、あだ名の館を目指しました。着いてみると、かつてあだ名の館があった場所は駐車場になっていました。「ちっ。潰れやがったか。ざまあみやがれ」。彼は呟き、駐車場を後にしようとしました。そこで地面に何かを見つけ、立ち止まります。「あの野郎…」。彼は笑ってそう呟くと、満足したように帰っていきました。
地面には白いチョークでこう書かれていたのでした。「おめでとう。親愛なるクソデブよ」