わしの暇つぶし

暇つぶしにもってこいの面白ブログ

不思議な夢・怖い夢シリーズ②

 

大学生の時に見た夢だ。

 

夜、私は最寄り駅まで歩いている。駅に近づくにつれてネオンのカラフルな灯りが増えていった。もうすぐ着こうかというところで、目の前にアメリカ人の家族が歩いていることに気がつく。

 

五人家族だった。大きく太った父親は上背も二メートルを超える大柄な白人だった。強面で近寄りがたい。黒人の太った母親は無愛想な表情を浮かべている。長女は綺麗なブロンドの美人でスタイルも抜群だった。年齢は二十歳ぐらいだろうか。大人びた雰囲気の中にあどけなさがあり、眩しい。高校生ほどに見える黒人の長男は母親とほとんど同じ肥満体型だ。小学生ほどの次女は姉に似た綺麗なブロンドの髪を生やしていた。楽しそうに笑う姿が天使のように可愛らしい。

 

私は長女と次女に目を奪われていた。あまりの美しさに目を離すことができなかった。はたから見ても不自然だったに違いない。大柄の父親に肩をぶつけられて私は正気に戻った。聞き取れない言葉で何か言われる。怒っているということだけは分かった。娘をジロジロ見られていい気持ちのする父親はいないだろう。

 

私は早足で家族を追い越す。早く逃げたかった。後ろで父親が怒鳴り声を上げている。無視して歩く。殺気を感じる。バイクで私を轢き殺そうとしていることが分かった。家族は誰もバイクになど乗っていなかったのだが。

 

私はどこかに避難しなければ確実に轢き殺されてしまうと思い、必死で最寄駅の交番に駆け込んだ。交番には小柄な若いおまわりさんが一人。少し頼りなく思ったが、事情を説明して助けを求める。話を聞き終えたおまわりさんはとても落ち着いている。まるで私が来ることを知っているみたいだった。

 

若いおまわりさんは私に煎餅を取ってくるように言った。部屋の奥の壁を見ると大きくて薄っぺらいソースせんべいのような煎餅が何枚か掛かっている。私がそれを一枚取るとおまわりさんは手招きをした。私がそちらへ向かうとおまわりさんは壁の鍵穴に鍵を差し込み、ぐるっと回した。

 

扉が開くと奥には四畳ほどの何もない長方形の部屋があった。床、壁、天井全てが何か銀色の金属でできている。私がその部屋へ入るとおまわりさんも後から続いた。外側から開けるときは鍵を差し込んで回すだけだったが、内側には巨大な冷凍室にあるような厳重な錠が設置されていた。おまわりさんは重い音を立てながら扉の錠を閉め、部屋の中央であぐらをかいた。私も彼に習って隣にあぐらをかく。おまわりさんに促され、持ってきた煎餅を食べる。

 

ヴォーーン。怒りの父親がバイクのエンジンをかけたのだろう。遠くの方で爆音がし、小刻みの振動が伝わってくる。ヴーーー。発進したようだ。恐怖で膝を抱える。横を見るとおまわりさんは落ち着いている。ヴーーーーー。次第に音が近づいてくる。頑丈な壁を今にも突き破ってきそうな勢いだ。ヴーーーーーーー。音が間近に迫る。ああ、終わりだ。結局私は轢き殺されてしまうのだ。ヴーーーー。音が遠ざかる。ヴーー。音がさらに遠ざかる。どうやら通り過ぎたようだ。助かった。

 

そう思った瞬間、ガタン、という音がして部屋が無重力状態になった。部屋が落下しているのだということに遅れて気づく。今度こそ助からないと思った。このまま加速すれば着地の衝撃で木っ端微塵になるのは明らかだった。しかし着地の瞬間は意外と早く訪れた。ドーン、と部屋が大きく揺れ、重力が戻る。助かった。おまわりさんは相変わらず落ち着いている。

 

部屋の扉を開けると、そこはなぜか外だった。嫌に青い空の下に、乾燥でひび割れた白い地面がどこまでも続いている。所々に大きな白い岩があり、他には何もない。外に出て後ろを振り返ると、大きな金属の直方体が斜めに突き刺さっている。今まで自分が入っていたものだ。交番の奥の金属部屋だけが分離して落下したのだろうか。

 

再び前を見るとそこには関西出身の大学同期がいた。キリッとした目つきと強烈なパンチパーマが印象的な男だ。見た目に反して優しく、誰にでも気さくに話しかけることができる。私は彼に聞いた。

 

ここはどこだ。

 

彼はこう答えた。

 

パラレルワールドや。

 

なるほど、パラレルワールドか。私は不思議と納得したのだった。